大学生ミライと統計について考えてみた

ずっと積読していた本を2冊読み終えた。
小塩真司 (2013).『大学生ミライの統計的日常ー確率・条件・仮説って?』東京図書
小塩真司 (2016).『大学生ミライの因果関係の探究』ちとせプレス

本書は、主人公の大学生ミライと、ミライが所属する心理学科の先生である江熊先生の2人の会話を中心に統計の基礎的な概念について対話形式で説明がされていく統計の入門書である。2冊目の『因果関係の探究』の方から読み始め、面白くて読了後すぐに1冊目の『統計的日常』を手にとった。2冊とも分量はそれほど多くないので、その気になれば1、2日で2冊とも読み終えることができる。

1冊目の『統計的日常』は、確率の基礎概念について、2冊目の『因果関係の探究』は統計的仮説検定の説明をベースにしながらも統計手法の解説にとどまらず、関係を調べるための条件や難しさについて書かれている。共通しているのは、2冊ともとても分かりやすく具体的で、初学者のレベルにきちんと降りて話を進めてくれている点である。数値の求め方一つにしても、式を提示するだけではなく、計算の過程をきちんと示してくれたり、記号の意味をさりげなく説明してくれているのでとても親切。これまでも統計手法の入門書にはいくつかあたったが、式を意図的に提示せずに説明しようと試みたり(それはそれで分かりやすかったが)、逆に式を提示するのみでその前後の解説が十分でなかったりすることが多々あり、ユーザーとして統計手法を使うことはあったけどもやもやしている面もあった。この2冊でそれが全て払拭されたわけではないが、かなり理解が進んだ気がする。

特に感服したのが、分散分析のところ。2冊目の『因果関係の探究』では2要因の分散分析の主効果や交互作用の説明がされている箇所があるが、ここはまさに『はじめての英語教育研究』を執筆する際に自分が直面した箇所でもあった。あのときも自分ができる限りのことはしたつもりだったが、本書を読んでいると、それがまさに自分が書きたかった理想のものだったと気づかされる。グラフの様々なパタンを提示し、主効果が見られる場合、交互作用が見られる場合など一つ一つ丁寧に解釈して説明をするのは、並大抵の理解では不可能である。読者の目線に降りて書くということがどういうことかを勉強することができるとてもよい機会となった。

『はじめての英語教育研究』を読んで、量的アプローチ、特に調査や実験を行おうとする方には本書2冊をぜひおすすめしたい。卒論や修論とダイレクトに繋がりそうなのは『因果関係の探究』の方だが、基礎からの学び直しという意味とストーリーを時系列に追っていくという意味で、1冊目から読むとよいだろう。この後『外国語教育研究ハンドブック』や『英語教師のための教育データ分析入門』を読むとかなり理解が深まりそうである。しかし、統計手法について学習しようと思うと、親切で分かりやすい本が本当に増えた。いい世の中になったものだ。