あまり公言したことはないのだが、ミニマリストに関連する本が好きで、色々と集めて読んでいる。本書もその1つ。ドミニク・ローホー (2010).『シンプルに生きる−変哲のないものに喜びをみつけ、味わう』幻冬舎を読んだのはもう大分前のお話だが、文庫版が出ていたことを最近知ったので何気なく購入。
本書は、タイトル通り、シンプルに生きるためのアドバイスが、考え方、スタイル、住まい、健康やフィットネス、お金、時間といった観点から書かれている。内容は盛り沢山であり、この文章を書いている今も、内容をメモしたファイルを何度も見返している。アドバイスは一貫しているものの見返すたびに新たな発見がある。特に気に入っているアドバイスには以下のものがある。
- お金は気を抜いていると失われてしまうエネルギーであり、お金の浪費は自分のだらしなさの代償である
- 美しくあるためには、常に中立を貫き、静観し、物事との関わりに一線を引くこと
- 幸せは現実を自分自身がどのように解釈するかによるものである
- 自分が本当に好きなものだけを所有するようにすること。妥協してものを選ぶと、自分もその程度の人間になる etc.
改めてメモを見返すと、シンプルに生きるということはとても難易度が高いことが分かる。シンプルに生きるためには、不必要なものにかける浪費を削ったり、不要不急の用事にかける時間を削ったりするなど、自制心が要求されるものである。また、○○をしたい、人に褒められたい・認められたいといった感情や、色々なものを際限なく買ってしまうといった、人間の欲求も自制する必要がある。
それでもシンプル主義に惹かれるのは、処理しなければいけないことが少なくなることで、心に溜まっている「もやもや」がスッキリする気がするからだろう。考えごとや問題が減れば減るほど、心穏やかに毎日を過ごせる気がするのは私だけではないはずである。また、本書でも述べられているが、物は増えれば増えるほど、その物に意識をもっていかれることも増えるだろう。そしてやっかいなことに、所有物を増やすことは、短期的に心が満たされるということはあっても、その満足感は長くは続かず、結局のところ本当の意味で満たされることはないのである。人間の他の欲求も同様で、短期的に満たされることはあっても長期的に満たされるということはそう多くない気がする。反対に、考えなければいけないこと、どうでもいいもの、様々な欲求を手放すことでこそ平穏が訪れる、というのが、私が解釈した「シンプル主義」である。
そんなシンプル主義を説いた本書だが、内容は多岐にわたっており、一読して本書の内容を網羅的に理解し実践することは容易ではない。むしろ、何度も読み込むことで、読むたびに新しい発見をもたらしてくれそうな本である。ミニマリストに関心があるならば、様々な観点からミニマリスト的な考え方を包括的に扱っているので、読後の満足感も大きいものだと思われる。
雑然としていると何となく気持ちが悪いのは、精神面も環境面も同じである。紙と鉛筆を用意し、適宜メモをとりながら本書を読みつつ、こうやってアウトプットしながら思考をまとめていくのにちょうどよい本かもしれない。読み終わった後は、再度メモを見返し、自分ができそうなところからシンプル主義を実践していくとよさそうである。