新型コロナウィルスの甚大な影響により、オンライン授業や遠隔授業を余儀なくされている教育機関も多いと思う。
僕はこれまでに、ブレンド型学習(対面授業とWebベースの授業をブレンドしたアプローチ)を高専の色々な英語の授業で取り組んできて、様々な課題に直面してきた。その中で得た、オンライン学習を円滑に設計、配信するための経験を6つシェアしたい。すでにオンライン学習を取り入れている教師には周知のことで真新しさはないが、誰かの何かの役に経てば嬉しい。
実施に構築した環境については、こちらにまとめました。
1. プロトタイプを作って検討する
オンライン授業=「zoomでつないで一斉授業」や「授業動画の配信」ではなく、オンラインで何を行いたいのか、その目的を明確するとよい。例えば、オンラインでできることには、知識の配信、練習問題(ドリル)の設置、共同作業、交流などが考えられる。どのようなコンテンツをどのようなバランスで設置したいのかを事前によく考えよう。そのためには、1単元分のプロトタイプを作って検討するとイメージがつかみやすい。また、edXやCourseraなどのMoocを受講し、どのようにコースを設計しているかを覗いてみてもよいだろう。
2. コンテンツの作成は可能な限り効率化する
オンライン授業というとキャッチーで華やかなイメージを受けるかもしれないが、実際には地味な作業が山のようにある。特に、学習コンテンツの作成は単調で淡々とした作業が続き、全てを独自に作り出そうとすると心が折れる。実際何回か折れた。
ネット上にはこれまで先人が作った良質なコンテンツがたくさんある。中学校や高校レベルの英文法の明示的指導であれば、YouTubeを探せば本当にたくさんの「授業動画」が出てくる。多分付け焼き刃で我々が作る動画よりもクオリティが高い動画がたくさん見つかることだろう。これらを最大限に活用すれば、コンテンツ作成の負担はかなり軽減できる。
独自にコンテンツを作るのであれば、コンテンツ作成者と技術面担当者を分けるなど、分担して作業に取り組むことを積極的に検討するとよい。全部一人でやるより格段に早い。
高校生以上であれば、いっそのこと、生徒や学生と共同でコンテンツを作成してもよいと思う。例えば、問題の解答や解説を分担して作成し、教員がチェックした上で配信すれば、勉強しながらコースを設置することができるし、みんなで協力して授業を作り上げることができる。
3. アウトプットの機会を設置する
単に授業動画を見るだけではなく、学生が取り組める課題や練習問題、テストなどを設置できるとよい。これらをオンラインで設置できると集計や採点の手間が省ける。可能であれば、Moodleの「小テスト」機能や、Microsoft FormsやGoogle formのクイズ機能を使って設置してみよう。
また、この機会を利用して、オンラインならではの課題を設置することも検討しよう。「ベストな音読録音を提出しよう」とか、課題を与えて「英語でスピーチを録音してみよう」などの課題は、オンラインの特性を活かした課題であると言える。Quizletの有料版が使えるのであれば、みんなでスコアを競っても面白いかもしれない。
反対に、課題プリントをPDF等で配布し、学生に印刷してもらい、それに書き込んだものを写真で送るように伝えるような方法でもOKだと思う。ややアナログに聞こえるかもしれないが、中高生だと、実際には教材作成の手間は一番少ないと思うし、意外にも学生の負担は1番少なかったりする。
4. 複数の配信方法を作る
コンテンツへの入り口はたくさんあったほうがよいと思う。学生のメールアドレスに配信したり、学校のHPに記載したり、ツイッターで更新情報を流すなど、工夫するとよい。
また、コンテンツの配信方法も2種類以上想定しておくとよい。例えば、MoodleなどのLMSを使って配信する他にも、学校のサーバーに入れておいたり、(著作権関係が大丈夫なら)USBドライブ等でデータを渡したりする方法も手だと思う。実際、高専では、USBドライブを持ってきてデータを持ち帰る学生も一定数見られている。そういった学生にも対処できるようにしておくとよいだろう。ちなみに子どもの小学校では、(本ブログを書いている時点では)先生方が回って宿題を各家庭のポストに入れてくれている(本当にありがとうございます)。
5. 受講者に過度に期待しない
上と矛盾する箇所があるかもしれないが、普段の教室と違った環境で学習に取り組むことを余儀なくされている学生に過度な期待をするのは酷である。例えば、学生時代に通信講座を受けたことのある人は多いと思うが、それを溜め込まずにやり続けることができた人はどの程度いるだろうか(僕はこれでもかというくらい溜め込んだ)。
新型コロナウィルスの影響で自宅学習を余儀なくされている学生は、おそらく通信講座の比ではない量の家庭学習を求められるだろう。教員は「オンライン授業をしなくては」と鼻息荒く教材を作る状況に追い込まれているかもしれないが、学生の事情を考えると、配信するコンテンツの量も自ずと少なめにするのが正解な気がしてこないだろうか。
また、学生のICTリテラシーは本当に様々で、サイトにログインすること1つとってもその速度は千差万別である。普段オンライン教材を取り入れている教員は認識していると思うが、多くの場合、学生のICTリテラシーは教員が想定しているほど高くはないと思っていて間違いない。そういった学生に対応できる窓口をきちんと作っておくとよいだろう。
6. こまめにコミュニケーションをとる
課題の〆切、コンテンツの更新、テレカンなどのアナウンスは一度行えば十分というわけではなく、複数回こまめに行うことを強く推奨する。学生は意外とサイトやメールを見ていなかったりする。本当に伝えたいことは何度も繰り返し伝えたり、必要に応じて、連絡を受け取った旨のレスポンスをもらうようにしよう。