Wang, Q., & Zhang, H. (2014). Promoting teacher autonomy through university–school collaborative action research. Language Teaching Research, 18(2), 222–241.

中国の学校教員と大学教員が協働で行ったアクション・リサーチ(collaborative action research)の効果・課題が報告された論文です。研究課題は(1)教師はARをできるようになる間にどのようなプロセスを経るのか、(2)ARは教師の自律を発達させるためにどのような影響を与えるのか、(3)うまく協働でリサーチを行う際にどのような問題が見られるか、の3つ。

対象者は17名の大学教員と45名の教員、大学教員と教員を仲介する3名のTeacher Research Officers (TROs)。45名の教員は12のグループに分けられ、数名の大学教員と協働でリサーチを行いました。協働ARは18ヶ月間実施。その間にARの理論や実践のワークショップ、進捗状況や問題・経験の共有、大学教員のグループミーティング、大学教員の支援を受けながらの教員同士の協働でのグループ活動が行われました。また、学校教員・大学教員ともにリフレクティブ・ジャーナルを書きました。データとして質問紙、インタビュー、リフレクティブ・ジャーナル、ミーティング中の議論、ARのリサーチ・レポートが収集され、質的に分析されました。

その結果、以下のことが分かりました。まず、研究課題1ですが、ARに対する教員の態度として、以下の4タイプが見られました。

1. プロジェクト開始から終了までとても熱心にARに取り組むタイプ

2. 実践を向上させたいと願ってはいたが、大学教員からのquick recipeを期待し、プロジェクトに時間や労力をかける準備ができていなかったタイプ

3. 実利的な目的(昇格要件を満たす等)でプロジェクトに参加していたタイプ

4. 最初からプロジェクトに乗り気ではなくドロップアウトしてしまったタイプ。

研究課題2について、ARの効果は、以下の3点が報告されました。

1. ARを行うことで教員の考えはより学習者中心になり、自身の指導ではなく、学習者の興味関心、学習ストラテジー、生涯学習能力を発達させることに焦点が変わっていった。

2. ARは、教員が個人で指導するものであるという文化に変化を与えた。ARプロジェクトをとおして、他の同僚とチームで取り組むことに対する意識が向上し、大学教員と共に取り組むことも楽しんだ。

3. ARを通して教師たちは指導やリサーチに対して自律的で活動的になった。

研究課題3について、協働で取り組むために見られた問題点として、以下のことが挙げられました。

1. 時間とエネルギーの欠如

2. 相互理解の必要性:大学教員「教師が研究の課題を期日通りに完成させない、データ分析を丸投げする」、教員「大学教員は我々の指導文脈に対する理解が希薄だ」といった不満

3. 教員側が努力を示さなかったり、支援に対する感謝がなかったりすることによる大学教員の不満

4. 論文を書くにあたり、大学教員側の貢献が認められない

5. 研究の技術的側面ばかりが強調されること

協働でのARに限らず、教員が研究を進める上でどうしても考えなければいけないのが時間と労力の問題です。これは日本に限らず世界共通の問題のようです。僕はこの点に関して、実践=研究と考えて、少し立ち止まって自分の実践について考える時間をとってはどうかと思っているのですが、現実には、少し立ち止まるための時間の確保も難しいのかもしれません。これは、すでに小中高の学校現場を離れてしまった身としては想像するより仕方ありません。

一方で、自分が時間がないと感じる時には、「時間を割り当てる」ことを考えています。PCのカレンダーと向き合い、授業等で固定されている時間を入力した後に、残りの時間をいかに割り当てるかということをよく考えます。それでうまくいくことばかりではありませんが、頭の中を整理する意図からも意識して行うようにしていますし、一週間の見通しを立てることができます。

この研究でもう一つ考えたことが、協働のあり方です。この研究では、大学教員側の支援の方法として主にリサーチスキルの講義やワークショップと実践のリフレクションのサポートが挙げられています。リサーチスキルを講義できるというのは大学教員の強みだなと改めて感じます。リフレクションの支援というのは、教員と大学教員では異なった視点から支援ができそうですが、具体的にどのようなものかと言われるとうまく言語化できません。その辺を詰めていくのも面白いのかなと考えました。また、本研究で述べられた、協働をする上で検討されるべき項目は「あるある」な感じで、読んでいて共感を覚えました。もちろんどう対応していくかを考えていく必要はありますが、国や文脈は違えど、意外と同じような悩みを持っているのだなあと感じました。