この論文は、中国の大学教員が研究論文を読むこと、研究を行うことに対してどのような認識を持っているか、そして、大学教員が所属する組織の、教員の研究の取り組みに対する貢献についてどのような認識を持っているかを調査した研究です。
対象者は、中国の大学英語教師725名。82%の回答者が女性、10年以下の教育経験をもつ教員が52.6%、32%が10-19年、14.3%が20年以上の教育経験あり。92%が修士を取得、62%のCETが外国語教育もしくは応用言語学を専攻していたとのことです。
データ収集方法として質問紙とインタビューを使用しました。質問紙は、Borg (2009)をもとにしたもので、6セクション(reading research, doing research, research culture, research scenarios, characteristics of good-quality research, demographic information)で構成され、リッカートスケール、多肢選択、チェックリスト形式で行われました。面接は、質問紙調査の内容を補足する形で行われました。対象者は質問紙の回答者から20名が選出され、face to faceかPC上で実施されました。面接内容は、質的に分析されました。
結果として、以下のことがわかりました(一部抜粋)
研究論文購読について
– 研究論文購読については、32%の教師がoccasionally, 28.7%の教師がperiodicallyと回答しました。periodicallyとは、ある特定のニーズに対応するために(プロジェクト・論文等)、一定の期間に集中して読むことを指します。そして、必要性があるときには論文を読みますが、進んで論文を読むことはしないということが面接で報告されました。また、「ニーズ」についてしばしば言及されたのが昇格に関することでした。
– 質問紙調査の結果、研究論文購読の影響については、約44%がmoderateと回答、32.8%がfairly strong or strongと回答しました。インタビューでは、論文を読むことを、教室での実践に直接的に影響を与えるものとして捉えているようだということが報告されました。
– 研究論文を全く読まないもしくはほとんど読まないと回答した教員を対象にその理由を質問したところ、42.7%が論文を読むことに関心がないこと、38.5%が研究論文を読むのが簡単ではないこと、34.4%が時間がないことを理由として挙げたことが報告されました。
研究遂行について
– 回答者のうち20.9%がほとんど、もしくは全くリサーチをしたことがないと回答、52.7%が時々、26.4%がしばしば、もしくは頻繁にしていると回答しました。
– 研究を行う理由については、質問紙調査では、professional developmentに役立つこと(81.2%)、指導のためのよりよい方法を見つけることができること(69.6%)、仕事上の問題点を解決することができること(54.5%)が上位の要因として挙げられました。一方で、インタビュー調査からは、昇格が研究のとても大きな動機づけとなっていることが報告されました。
– 研究をしない理由について尋ねたところ、研究を公刊することが難しいこと(49.3%)、助言者を必要としているが助言者を得ることができないこと(47.8%)、研究方法に関して十分な知識がないこと(47.1%)、研究を行う時間がないこと(47.1%)が多数を占めました。インタビュー調査によると、教師には仕事上も個人的にも様々なことが求められており、すべてを行うことは難しいこと(女性教員が多く、指導、校務、子育てに続けてリサーチをすることが難しいことが挙げられていました)、質問紙調査で挙げられていた上述の要因が複数絡み合っていること、組織が公刊されたもののみをリサーチとして認識し、自身の指導をよくするために行われた営みを研究とは認識してもらえないことが挙げられました。
研究文化について
– 研究文化については、管理職が、教員に研究をするように期待していること(87.8%)、研究に関する書籍やジャーナルにアクセスする環境があること(69.1%)、管理職が研究を行いたい教員を支援している(66.1%)教員は研究をすることが彼らの重要な仕事であると認識している(60.1%)ということが挙げられました。しかし、インタビューでは、管理職は研究を期待する割には研究に対する支援をあまり行わないこと、研究を仕事の負荷として認識していないこと、リサーチについて協同で取り組む文化が見られないことが報告されました。
以下、私の考え・気づきです。
中国は研究においてもすごく勢いがある国であると個人的に感じていますが、論文は必要に迫られた時に読み、進んで読むことはしないこと、研究を行う理由として昇格の要素をあげる教員が多く見られたことから、研究が道具的に用いられている印象を受けました。そのこと自体を批判しているとか悲観しているとかではなく、何といいますか、ある種のリアリティを感じ、印象的でした。一方で、研究を行う理由としてprofessional developmentを挙げる回答も多く、両方の要素が絡み合っている印象も受けました。これは日本の研究機関も多かれ少なかれ「あるある」話だと思います。最初は、昇格のためにという外的な要因から研究に取り組んだとしても、自己の成長に役立つと感じれば、それを何らかの形で続けようと思ってもらえないのかなあなんて考えたりもしました。
一方で、研究を行わない理由には、論文を公刊することが難しいことのほかに、助言者を得ることができないこと、研究方法に関する知識が十分でないことと、研究方法論やテクニカルな側面が挙げられ、これは日本でも似たような感じなのかなと思いました。学校教員時代の自分の環境を思い出すと、学会や研究会に積極的に出て研究者の知り合いでもいなければ、普通研究について周囲に聞ける人ってそういないよねと感じます。本を読んで勉強すればよいのかもしれませんが、それだけでは中々イメージもつきにくいのかもしれませんし、やはり研究法を独学のみに頼るのってハードル高い気がします。現在はYouTubeで様々な動画が配信されたり、体系的にまとめられたeラーニング教材を安く購入できたりする時代ですから、学校の先生のための研究法の教材なんかも誰か作ってくれると嬉しいなあと思っています。
本研究は大学教員を対象としたものですから、組織の研究に対する支援体制も気になるところです。本研究では、組織は研究を期待する割には研究に対する支援をあまり行わないことが挙げられており、これも少なからず共感を覚えました。自分が知らないだけかもしれないが、組織が個々の研究者をどのように支援しているのかというのを研究した事例が読めると面白そうです。